平安貴族も愛飲した 貴醸酒の「榎酒造」

榎酒造について語るなら、
「貴醸酒」について触れないわけにはいけません。

皆さんは貴醸酒というお酒をご存じですか?

 貴醸酒とは「日本酒で日本酒を仕込む」という珍しいお酒。
通常の日本酒は、もろみを仕込むときに米と米麴に水を加えますが、貴醸酒はそのときに加える水の替わりに日本酒を加えて仕込みます。

その結果、デザートワインのような、甘くとろりとした味わいを生むことになります。このようなお酒にお酒を加えるという貴醸酒の仕込みは、実は平安時代から行われていて、とても歴史のあるお酒なんです。

日本酒の醸造工程というのは、世界的にみても他の酒類と比べると作業行程が多く、そして複雑で、日本人らしい高い技術力に支えられているお酒と言われています。

お酒を作る工程で「三段仕込み」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、その三段仕込みの最終段階で水を使わずに日本酒を使います。
貴醸酒はまさにその高い技術力の結集ともいえるでしょう。 

『お酒が甘くなる理由は、日本酒を加えることでアルコールを生み出す酵母にとって大きなストレスが与えられ、糖分を消化する酵母の発酵が抑制される為、そのまま糖分が酒中に残るからです。』

三段仕込み

「成熟した酒文化の中には 必ず甘い酒がある」

榎酒造のお酒の特徴はなんといっても、とろみのある甘口の貴醸酒。
戦後の数ある日本酒ブームは、「淡麗辛口」や「香りのあるスッキリとした酒」「旨口のお酒」といった具合で、今まで「甘い日本酒」が注目されたことはありませんでした。

むしろ、今でも「日本酒は辛口がいい」という方が多いように感じます。
ではなぜ、榎酒造は甘みの強い濃厚な酒造りをするようになったのでしょうか。 

「貴醸酒」という名の日本酒が流通するようになったのは1970年代。
榎酒造が初めて醸造、そして商品化をしました。きっかけは、当時東京の滝野川にあった国税庁醸造試験所(現・独立行政法人 酒類総合研究所)が貴醸酒の醸造を研究開発した内容を公表して一年目、「そんなお酒を造ってみたい!」と手を挙げた蔵元が榎酒造1社だけだったからです。

先代の社長は、「成熟した酒文化の中には必ず甘い酒がある」と貴醸酒に日本酒の未来を感じ、1974年に初めて醸造しました。

貴醸酒の歴史はそこからスタートしたわけです。
国税庁醸造試験所の製造特許をもとに、1974年、榎酒造は全国で初めて貴醸酒を製造。
「誰も飲んだことのない新しい酒にチャレンジし、日本酒の幅を広げたい」
その一心で、酒造りに励みました。

 hanahato_history

その第一号となったのが、今や榎酒造の主力商品である「華鳩」です。
製造当初、「こんな色のついた甘い酒は日本酒ではない」と酷評されもしましたが、諦めることなく改良を続け、試行錯誤を重ねた結果、貴醸酒が受け入れられる土壌が徐々にできてきました。

実際、海外での評判も良く、世界にアピールできる日本のお酒として「華鳩」は年々認知度が上がっています。
2008年度IWC(ロンドンで行われるワインコンペディション)のSAKE(古酒)部門で8年熟成古酒がトロフィーを受賞するなどとても高い評価を受けています。

華鳩貴醸酒

「手間もコストもかかったとしても、納得のいくお酒を作りたい」

現代の酒造りは、醸造技術が発達してくると効率的な手法が増えてすべての作業を人の手で行う必要がなくなりました。榎酒造でも様々な醸造機材を試したり、行程を見直したりと常に新しいことにチャレンジしています。

ただし、いくら効率化が進んだとしても、作業段階に人の手を加えなければ、どうしても納得のいくお酒ができないんです。

日本酒の原材料であるお米は、「甑(こしき)」という家庭で使う蒸籠の1000倍ぐらいの大きさの蒸し器で蒸します。蒸した後は行程により麹室(米麹を作る部屋)や仕込みタンクなどと行き先が違いますが、現在ではエアシューターという高圧の送風機でダクトを通してお米を運ぶのが主流です。

 

榎酒造_麹室

榎酒造でもそのエアシューターを使っていましたが、空気に触れる時間の調節が難しいのとそもそも空気以外のものに接触してしまうことで、どうしても味に変化が出ることから、送風機の使用をやめ今では人の手で運ぶようにしています。

また製麹(麹を造る行程)では、70℃前後かつ20kgの米を背負って、2階まで何往復も担ぎ上げます。お米を放熱した後は麹室に運ばれ、2時間おきに細やかな温度管理を行いながら、作業員が夜通し麹造りを行っているんです。
やはり人の手が介在してしっかりと手間をかけることでお酒の繊細な味わいが保たれそして愛着のある一本に仕上がります。まさに力仕事。

"日本酒造りはとても体力が必要”と言われる意味がよくわかるはずです。

日本酒づくり_職人


貴醸酒造りでは、仕込み水の一部を酒で代用すると述べました。

日本酒造りで仕込み水を使う工程は複数ありますが、貴醸酒では「留添」と呼ばれる工程で水の代わりにお酒を使います。

 「留添」とは、3段階に分けてもろみを仕込む「三段仕込み」のうち、最後の段階のことです。ここで酒を加えることによってとろりと甘く濃厚な味わいに仕上がるのです。

日本酒に、仕込み水が大切なように酒で仕込む貴醸酒には上質なお酒が必要です。

時間と手間、コストが日本酒以上にかかるお酒ですが、長期保存しても酒質が保たれ、熟成を重ねるほどに口当たりなめらかであと味のキレも深まるリッチな味わいになるんです。

貴醸酒はたくさんの糖分を含み、梅酒並みの甘さを持つお酒です。
一般的な日本酒よりも、ブランデーやシェリー、紹興酒に近いニュアンスを持っています。 

ただし、甘いだけでなく、酸味もしっかりと感じられ、口当たり軽快ですっきりした美味しさがあるのが特徴です。

 濃厚な甘さとすっきりとした爽やかさ、そしてほろ苦さを含んだ複雑な味わいは、リッチな気分を味わいたい日にぴったりです。
 

米麹

食前酒、食中酒、食後酒やナイトキャップ、そしてデザートまで幅広く楽しめる貴醸酒。

未経験の方は、これを機に是非、芳醇な味わいを試してみてください。

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